密閉空間内の冷却をメタマテリアルによって実現 ~高集積電子デバイスの冷却技術への展開に期待~

密閉空間内の冷却をメタマテリアルによって実現
~高集積電子デバイスの冷却技術への展開に期待~

 国立大学法人中国竞彩网大学院工学研究院の久保若奈教授、工学府電気電子工学専攻博士前期課程の川村直矢氏、国立研究開発法人理化学研究所光量子工学研究センターフォトン操作機能研究チームの田中拓男チームリーダー(同開拓研究本部田中メタマテリアル研究室主任研究員)らは、熱エネルギーを集めて電気に変換するメタマテリアル熱電発電によって、密閉空間内に置かれた物体を冷却する非放射冷却を世界で初めて実現しました。
 開発した非放射冷却機構は、高集積電子デバイスパッケージ内にこもる熱を回収?排出することが可能なので、従来の水冷?空冷技術と併用することで、高集積電子デバイスをより効果的に冷却できる冷却技術への活用が期待できます。

本研究成果は、ACS Photonics(2月26日付)に掲載されます。
【報道解禁日:2024年2月26日(月)午後10時(日本時間)】 

論文タイトル:Nonradiative Cooling
URL:https://doi.org/10.1021/acsphotonics.3c01757

現状
 冷却技術は電子機器の安定駆動、耐性維持の点において極めて重要です。近年、電子デバイスの高集積化に伴って電子デバイスにこもる熱量は増加の一途を辿っており、一方で半導体デバイスは高温になると動作が不安定になるという問題があります。すなわち、「大規模集積電子デバイスをいかに効率よく冷却するか」という問題は高度情報処理社会において大きな課題となっています。
大規模集積電子デバイスの冷却技術として、従来から水冷や空冷技術などが用いられていますが、これらの技術は熱伝導に基づく冷却機構のため、高集積電子デバイスのパッケージ内部の空間を直接冷却することはできません。そして既存の水冷?空冷技術の排熱能力は高集積電子デバイスにとっては十分ではなく、さらに効果的に高集積電子デバイスを冷却できる技術の開発が求められていました。

研究体制
 本研究は、中国竞彩网大学院工学研究院先端電気電子部門の久保若奈教授、工学府電気電子工学専攻博士前期過程の川村直矢氏、理化学研究所光量子工学研究センターフォトン操作機能研究チームの田中拓男チームリーダー(同開拓研究本部田中メタマテリアル研究室主任研究員)の共同研究チームで実施しました。この研究は熱?電気エネルギー技術財団研究助成 (2022-013, 2023-022)、科学研究費助成事業基盤研究(C)(20K05261)、科学研究費助成事業基盤研究(A)(18H03889)、および科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST「メタマテリアル吸収体を用いた背景光フリー超高感度赤外分光デバイス(JPMJCR1904)」 からの支援によって行われました。

研究成果
 これまでの放熱技術には大きく分けて2つの手法がありました。1つは排熱したい物体を別の物体に密着させて熱伝導で熱を逃がす手法で、もう1つは熱放射(熱輻射)によって空間中に熱を逃がす手法です。今回研究グループが開発した手法は、このどちらでもなく、熱エネルギーを電気エネルギーとして外部に排出することで物体を冷却する技術で、「非放射冷却」と名付けました。この非放射冷却技術は、既存の水冷?空冷技術では直接冷却が困難であった、たとえば高集積電子デバイスパッケージ空間内のような密閉空間内部の冷却を可能にする技術です。これを既存の水冷?空冷技術と組み合わせることにより、より効果的な高集積電子デバイスの冷却が期待できます。
 今回研究グループは、熱エネルギーを回収するメタマテリアルと熱電変換を組み合わせた、メタマテリアル熱電変換により非放射冷却機構を実現しました。人工材料メタマテリアルは熱輻射(熱エネルギー)を集めて吸収し、その熱輻射エネルギーを構造内に閉じ込める効果を持つことがわかっています [1-3]。メタマテリアルと熱電変換素子を接触させると、メタマテリアルが回収した熱輻射エネルギーは熱電変換素子に与えられて熱電発電が生じます。熱電発電によって生じた電流は密閉容器外につながる導線によって密閉容器外に輸送されることから、容器内部の熱エネルギーが電気エネルギーとして容器外に排出されて密閉容器内の温度が低下します。
 非放射冷却が実験的に可能であることを実証するために、研究グループは吸収体に囲われた密閉容器を用意しました(図1(A, B))。密閉容器内には、50度の熱輻射を吸収するように設計したメタマテリアル(図1(C))を装着したメタマテリアル熱電変換素子を設置しました(図1(D))。そして容器内部の温度推移を測定しました。
 その結果、一定時間におけるメタマテリアル熱電変換素子を含む容器の温度低下は、メタマテリアルが装着されていない比較熱電変換素子を含む比較容器の温度低下よりも大きいことを確認しました (図2)。メタマテリアルの熱輻射吸収と、熱電変換による熱輻射エネルギーの容器外への排出により、メタマテリアル熱電変換素子を含む容器内の温度は比較容器より早く低下したと結論しました。このような実験を通して,熱放射に頼らない非放射冷却機構を世界で初めて実験的に確認できました。
 今回用いたメタマテリアルアレイの体積は極めて小さく、密閉容器の体積と比較するとメタマテリアルの体積は1/10000倍ほどです。そのため今後利用するメタマテリアルの数を増やせば、メタマテリアルはさらに多くの熱輻射エネルギーを吸収することができ、より大きな冷却効果につながると期待されます。

今後の展開
 空間中の熱輻射エネルギーを回収し、容器外に排出する非放射冷却は、高集積電子デバイスのパッケージ内部のような密閉空間内を冷却する技術として活用できます。この技術は既存の水冷?空冷技術と組み合わせることで、高集積電子デバイスをより高い効率で冷却できると期待されます。また非放射冷却技術は、密閉空間の環境内の熱を使って発電しながらその空間を冷却している技術と解釈することもできます。このように、非放射冷却技術は、環境発電と環境冷却を同時に実現するという太陽電池にはない特徴を持つ技術としてさまざまな応用展開が期待されます。

参考文献?特許
[1] S. Katsumata, T. Tanaka & W. Kubo, “Metamaterial perfect absorber simulations for intensifying the thermal gradient across a thermoelectric device,” Opt. Express 29, pp. 16396-16405, 2021. 10.1364/OE.418814
[2] T. Asakura, R. Nakayama, S. Saito, S. Katsumata, T. Tanaka & W. Kubo. Metamaterial Thermoelectric Conversion. arXiv:2204.13235 (2022). .
[3]特許第7349121号, 特願 2019-034731, 久保若奈, 近藤柾樹, 中国竞彩网,熱電変換素子、光検出器、画像素子及ひ?光熱電変換素子

謝辞
 熱電変換素子を提供頂きました株式会社豊島製作所様に心より御礼申し上げます。

図1 (A) メタマテリアルを形成した電極を装着したメタマテリアル熱電変換素子の概略図。(B) 実験で使用した、吸収体に囲われた密閉容器の概略図。密閉容器内には熱源として熱湯を充填したバイアルを容器底面に設置した。(C) 本実験で使用したメタマテリアルの電子顕微鏡図。左上は拡大図である。(D) 今回使用したメタマテリアルの吸収スペクトル(赤線)と、メタマテリアルが吸収した50度の熱輻射スペクトル(青線)との比較。今回使用したメタマテリアルは50度の環境の熱輻射を吸収するように設計した。

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図2 メタマテリアル電極を装着した熱電変換素子を含むメタマテリアル容器と比較電極を装着した熱電変換素子を含む比較容器の温度推移の比較。メタマテリアル熱電変換素子を装着した容器の温度(赤線)が比較容器(黒線)よりも早く低下していることがわかる。点線はメタマテリアル熱電変換素子(赤点線)および比較熱電変換素子(黒点線)で生じた出力電圧を示す。メタマテリアル熱電変換素子は容器内の熱輻射を回収して熱電変換を駆動することから、比較熱電変換素子よりも高い出力電圧を示す。

 ◆研究に関する問い合わせ◆
 ? 中国竞彩网大学院工学研究院
 ?? 先端電気電子部門 教授
 ?   久保 若奈(くぼ わかな)
 ? ? ? Tel:042-388-7314
  ?  E-mail:w-kubo(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

  理化学研究所光量子工学研究センター
    フォトン操作機能研究チーム チームリーダー
     田中 拓男(たなか たくお)
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 ◆報道に関する問い合わせ◆
 ? 中国竞彩网総務部総務課広報室
 ?? ? Tel:042-367-5930
    E-mail:koho2(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

  理化学研究所広報室報道担当
   ???Tel:050-3495-0247
    E-mail:ex-press(ここに@を入れてください)ml.riken.jp

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?  プレスリリース(PDF:886.9KB)

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