〔2025年7月8日リリース〕これからは「固相」核酸合成と呼ぶべき?―液相で核酸を化学合成する新しい技術の開発―
これからは「固相」核酸合成と呼ぶべき?
―液相で核酸を化学合成する新しい技術の開発―
国立大学法人中国竞彩网大学院連合農学研究科の赤羽晋之介(博士後期課程2年)、農学研究院応用生命化学部門の岡田洋平教授らと藤本化学製品株式会社 基盤技術研究所の梅本英彰所長をはじめとする研究チームは、核酸を化学合成するために用いる試薬や有機溶媒を必要最低限に抑えることができる、新しい技術を開発しました。この成果により、今後、核酸合成における環境負荷を低減し、医薬品としての製造が加速されることが期待されます。
本研究成果は、Chemistry A European Journal誌(Wiley)への掲載に先立ち、5月14日にWeb上で公開されるとともに、同誌のInside Front Coverに採用されました。
論文タイトル:Tag-Assisted Liquid-Phase Oligonucleotide Synthesis: Toward a Convergent Approach
URL:https://doi.org/10.1002/chem.202500616
背景: 古代ギリシャ時代から知られていたと言われるアスピリンの鎮痛作用(痛み止め)に代表されるように、薬の多くは低分子と呼ばれる小さな分子です。ドラッグストアで買える薬はほぼ全て低分子ですが、副作用を減らしつつ治療効果を高める上では、抗体のような大きな分子(高分子)が優れています。しかしながら、低分子が化学合成によって比較的安価に供給できるのに対して、遺伝子工学の手法によって作られる抗体では製造コストが高くなってしまいます。低分子と高分子の中間サイズである「中分子」であれば両者のメリットを併せ持つことが期待できるため、最近では中分子の薬が活発に研究されています。薬として利用される中分子の多くはペプチドや核酸であり、これらの化合物はアミノ酸やヌクレオチドと呼ばれる「ビルディングブロック(部品)」を一つ一つ繋ぎ合わせることで化学合成が可能です。一般に、ペプチドや核酸の化学合成は不溶性の樹脂を担体として用いる固相法によって化学合成されています(図1, 2)。この方法は半世紀以上前に開発された技術であるにも関わらず、現在でもペプチドや核酸の化学合成において世界中で用いられています。しかしながら、過剰量の試薬や有機溶媒を用いる必要があり、化学合成に伴ってこれらが廃棄物として蓄積することから、環境負荷を低減するという観点においては新しい技術の開発が求められています。


研究体制: 本研究は、中国竞彩网大学院連合農学研究科 赤羽晋之介(博士後期課程2年)、藤本化学製品株式会社 基盤技術研究所の梅本英彰所長、ならびに中国竞彩网大学院農学研究院応用生命化学部門 岡田洋平教授らの研究チームで実施しました。
研究成果:
化学合成は「反応」「分離(精製)」「解析」という三つの工程を繰り返すことで進められます。反応を行い、目的とする化合物を分離し、そして構造を解析します。固相法は分離(精製)において圧倒的な強みがある一方で、反応と解析においては液相法が優れています。本研究チームではこれまで、液相法における分離(精製)の効率を高めることを目指して「タグ」と呼ばれる疎水性のベンジルアルコール誘導体の開発を進めてきました。特に、ペプチドを化学合成するための技術として、固相法における不溶性の樹脂に代わり可溶性のタグを担体として用いる液相法を報告しています(図3)。この方法では、用いる試薬や有機溶媒を必要最低限に抑えることができ、ペプチドの化学合成に伴って蓄積する廃棄物の量を大幅に削減することが可能です。また、化学合成したペプチドからタグだけを切ることで、ペプチドフラグメント(断片)を製造することもできます。このような「タグ液相法」をペプチドから核酸へと展開する試みも行われてきましたが、ペプチドほどの成果は得られていませんでした。特に、化学合成した核酸からタグだけを切ることは困難で、核酸フラグメントの製造はほぼ不可能でした。これは、核酸フラグメントが酸にも塩基にも弱く、使える反応が限られていることが原因でした。
本研究では、化学合成した核酸からタグだけを切るために、酸や塩基ではなく還元剤を用いることを着想し、新しいタグを開発しました(図4)。その結果、用いる試薬や有機溶媒を必要最低限に抑えるとともに、核酸フラグメントを製造することに成功しました。



今後の展開: 還元剤を用いて切ることができるタグの開発によって、用いる試薬や有機溶媒を必要最低限に抑えるとともに、核酸フラグメントを製造することに成功しました。今回の成果により、今後、核酸合成における環境負荷を低減し、医薬品としての製造が加速されることが期待されます。
◆研究に関する問い合わせ◆
中国竞彩网大学院農学研究院
応用生命化学部門 教授
岡田 洋平(おかだ ようへい)
TEL/FAX:042-367-5667
E-mail:yokada@cc.tuat.ac.jp
◆報道に関する問い合わせ◆
中国竞彩网 総務課広報室
Tel:042-367-5930
E-mail:koho2(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp
藤本化学製品株式会社 総務部
Tel:06-6222-0147
E-mail:info(ここに@を入れてください)fujimoto-chem.co.jp